星の挽歌/筆者不明、日々録、帝暦百年以前(1)

写影:共和暦25年2月24日
訳:ミカ・エリン

【帝暦二十四年 一月四日】

 帝都。朝から曇天、夕方より雪。来客無し。明日、*1弟帰宅予定。書簡五通のうち四通は五弟へ。一通は笙老爺笙家当主殿への祝辞であるため書を興す支度をする。

 アリエドより二弟が戻る旨は十日ほど前に聞いた。*2リエドの現状を鑑みるに、その話が御前会議でされると推察。対応は要勘案。出兵は要請されれば当然として、私に行けということでもないはずである。*3由商会へは随分貸し付けており、*4し倒れなどという失態は一度で十分である。*5も二度目の轍を踏むつもりはあるまい。私ではなく二弟を直接呼び戻すのが気にいらないと言えば確かだが、仕方がない。
 妻は二弟の帰還の差配で忙しい。弟の帰宅はここ数年珍しい出来事だが、そのため彼の好物を揃えて歓待するということである。私の出征の時に*6姫が一体何をしてくれたかと苦笑。最近文衡が剣の稽古をしている。良いことである。芳嬰も混じれば良いが、あの子は仕方がない。したがることは何でもさせてやるべきである。淑人は相変わらず読書。

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*1 二弟(アルテイ)
 漢氏の上流階級では従兄弟を含めた多世代同居が一般的で、同世代の子供達を年齢順に上から兄弟として取り扱った。二弟ということは手記の筆者が長兄であり、弟とあっても実際の兄弟でないこともあり得る。

*2 アリエド
 現在のスレスト州リャド近辺に存在していた自治都市。海路とユーエリ河の支流をつなぐ廻船拠点都市の一つであった。

*3 自由商会
 シタルキア皇国が執る自由商業主義を背景に、既存の権益独占型組合に対抗して結成された商業組合が寄り集まった組合連盟。成立経緯と権益を巡って激しく既存組合と対立した。シタルキア皇国は全面的に自由商会側を支援し、旧ラジール領の組合を強引に解体することとなる。

*4 貸し倒れ
 後の文脈から整合するに、ファリーム王国への内政干渉の失敗を指すと思われる。領土を失うまでには至らなかったが、交易権の一部を譲渡せざるを得なかった。

*5 彼
 ファリームへの干渉を指導していた人物は複数いる。ビリア軍務将官、フェスル・シエルナ将軍の二人が現場指揮官としては有名だが、クースト参議太夫人、シトルク・シエルナ公爵も推進派であった。漢氏はイダルガーン大公が完全に傍観を決め込んでおり、全体冷ややかである。

*6 明姫
 明、が妻の名と思われる。姫、というからには妾ではなく名家から嫁いできた正妻であろう。当時の漢氏は女性の地位が低く、一般の家庭の女性名が伝わることは珍しい。