星の挽歌/ラウール大公宛書簡主、書簡、補足(1)

写影:共和暦25年2月5日
訳:バート・アネキス

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【帝暦無し、日付8月12日 緑公閣下】
 *1ルモドはいまだ夏の中央にあって、夜の風を日中待ちわびながら過ごしております。アリエドよりイ元帥がお戻りになりましたらどうぞ暑気払いのためにご休養をお勧めして下さいますよう、お願い申し上げます。あのお方も五十の齢をとうに過ぎたご年齢、旧ラジールの真夏は体力を食うてたまらぬと仰せでございました。
 とはいえ不敗の名に相応しく、また無謬むびゅうの名に十分引合う戦果であると存じます。アリエドはイ・ユーファー将軍の薨去以来実に不穏で迂闊に手出しできぬ緊張を持っておりましたが、元帥の名と間違いの無い導きにて我々はようやく旧ラジールの権益を正面から皿に盛りつけることが出来るというものです。
 旧王族とやらのご心配は今後必要ないと思われます。先帝陛下はお優しい方でございましたがそのお優しさこそ罪科つみとがであると元帥も仰っておいででしたし、閣下も同意見であると小職は推察いたします。禍根なきよう、イ元帥からも特に強く小職に申しつけがございました。小職も十分理解しておりますのでご安心下さい。
 最前よりお約束のございましたメルリィからの支援の件、どうぞよろしくお差し回しのほど、お願いいたします。別便で押収債権の概要報告書と一覧をお送りいたします。マシアト公、カラバグ公へも同内容のものを送付しておりますので転筆は不要でございます。

【署名 *2梁桓、虎の紋章印】

【補記、手蹟はケイ・ラウールと同一】

 旧ラジールの王族とやらが何名いるのか、崩壊後二十年近く経とうとしているのにまだご落胤などという小説を信じたい者がいるらしい。シタルキアの旧王族もしぶといが、こちらもしぶとい。根太く無ければ王統など築けぬということなのかもしれないが。シタルキアの旧王族の件はそう遠くない将来に重大な決断をせねばならぬだろう。
 若い連中は今の状態に不満らしいが、彼らに一体何が出来るのか。ユヒト殿下は何か心得違いをなさっておられる。そしてそれを今上陛下が全く棄蹴することが出来ぬ。惰弱な部分だけよく似ておる。比較してはならないと思いもするが先帝陛下の偉大さを感じざるを得ないのはこんな時で、生前は偉大と感じなかったことがまさに偉大なのであろう。

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*1 コルモド
コルモドは旧ラジール王国の首都であり、現在も鉄鋼と産石とその流通で賑わう大都市である。始祖帝のラジール討伐によりシタルキア領に組み込まれたものの、抵抗も強く完全に配慮が不要になるのは帝暦90年から先である。そのため当時からコルモドには旧ラジール領の管理の為に権力をある程度委譲した小国府がおかれていた。

*2 馬梁桓
署名は漢氏文字であるが、マレンファンという名のほうが通りがよいはずである。始祖帝の時代にはまだ少年期であったため参政していないが、20代後半より立法府の官僚としてラウール公が重用し始めた。