星の挽歌/ラウール大公宛書簡主、書簡、補足(2)

写影:共和暦25年2月5日
訳:バート・アネキス

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【帝暦無し、日付11月22日 緑公閣下】

 *1賞の一覧を授受いたしました。先々細々せんせんこまごまとご配慮下さり厚く御礼申し上げます。予算を拡充して下さったことにも再々さいさい感謝いたします。予算決定通知書を拝見しましてマシアト公は隙間を寄せる魔法使いかと感じ入りました。本当に本当に素晴らしいことです。紙貨幣の交換率は順調に下落しておりますのでどうかその点はご安心ください。
 旧王族を名乗るうち、特にアリエドの始末としてスレファドという男を捕らえております。ザクリアへ送還いたしますのでどのような方法でも勿論異存ございません。イ元帥にもご無礼を働いた者でございます。
 元帥からもお話は聞いておられるかとは存じますが元帥お一人の体面の問題ではなく、私どもは確かに肌の色が少々異なりますが黄色い犬などといわれる謂われは一切ございません。よって*2氏盟主である元帥を侮辱する愚かさはこの際喧伝していただきたく、御熟考をどうぞ深く沈頭と共にお願い申し上げます。

【署名 馬梁桓、虎の紋章印】


【補記、手蹟はケイ・ラウールと同一】

 あの方がアリエドで「ラジールの残飯を漁る黄色い犬」と侮辱を受けたことは別でも報告が来ている。残飯というがつまり連中が金庫の奥に必死に貯め込んでいるのが残飯というわけかと思うと苦笑のほうが先に来てしまうが……誰も指摘してやらぬのだろうか。が、彼への罵倒は到底許されるものでない。
 それはマレンファンが書いて寄越すように、漢氏盟主である彼へ黄色という侮蔑はあってはならないし、同時に我が国への侮辱である。漢氏はあの御方だけではなくマレンファンもそうであるがハンシーク公やシフォングル公に対しても無礼であり、今上陛下は父君の肌の色を受け継ぎはしたが血の半分は漢氏である。最早無礼などという段階ではない。
 とうに結論は決めているが、その前に議会で公開の審問にしてやろうと思う。審問は先帝陛下の時以来であるが、あれはただの学生の延長線上の喧嘩であったから今度はもう少し上手くやれると考える。


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*1 褒賞
 コルモドは旧ラジール領の治政中心地であった。丁度アリエド紛争の終結頃であるようだが、褒賞はアリエド紛争に関わった功労者のうち、現地の駐在官や官吏に当てられた。軍関連に関してはシタルキア皇国皇帝より直接イダルガーン元帥へ下賜があったとされる。

*2 漢氏盟主
 漢氏らの選定長である者を漢氏盟主という。この頃漢氏盟主は持ち回りではなく、特定の家から排出されていた。始祖帝の時代にはイ家が担っており、イ家の当主であるイダルガーン大公は、自動的に漢氏盟主でもある。