星の挽歌/イダルガーン大公、日々録、帝暦百年以前(5)

写影:共和暦25年2月24日
訳:ミカ・エリン

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【帝暦40年 10月16日】

ミシュアル。曇り、夜半から雨。書簡二通。来客無し。

 以前先の陛下から頂戴した*1敷の海側が三弟の屋敷であり山側が私の屋敷であるが、一つにすることとした。いくつかあるうち敷地は恐らくここが一番広い。庭の造作をよく造るよう申しつける。妹と共にいずれここに招くことになるから*2の花を植えてやる。
 先の陛下には漢氏屋敷の案内などを殆ど出来ぬままであった。この屋敷は完成前にザクリアへ凱旋しておったし、長綉には立ち寄ったことがないそうである。
 *3クリアの本邸には二度お運び頂いている。一度目は三弟の葬儀、二度目は離縁させようと妹を本邸へ連れ戻った際、自らお迎えに来られた時である。
 陛下の御気性からしてご自分でお越し下さることは分かっていたと思う。蘭花を無理矢理戻したが、お願いした通りに夜半護衛のみで来られたのには呆れた。だから護衛を返させ、陛下にも寵をお許し頂いたので寝た。ずっと泣いておられた。
 お前も兄上と同じだ、ランファを盾にするところも、と仰るのでつい手が出てしまったが、後は泣くばかりで話にならなかった。
 もう許して欲しい、何故こうなるのか説明して欲しい、俺に悪いところがあるなら直すから。恐らく武烈王との例の件も同じよ……──

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*1 屋敷
ミシュアの海を望む高台に屋敷を建てるための土地を始祖帝が与えたのは帝暦元年である。その直後の政変で始祖帝はイダルガーン公を伴い帝都へ凱旋しているため、実際にイダルガーン公がミシュアに生活拠点を置くようになったのは引退した後のことであった。

*2 蘭
イダルガーン公の妹であるラファーナ皇后の漢氏名はランファという。蘭の花という意味であり、漢氏の価値観の中では高貴で上品な花とされていた。

*3 ザクリアの本邸
イダルガーン公の帝都の生活拠点はこの本邸と呼んでいる建物である。現在の帝都中央四区の西側がほぼ収まる広大な屋敷であった。