星の挽歌/イダルガーン大公、書簡および日々録(2)

写影:共和暦25年2月24日
訳:ミカ・エリン

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【帝暦四十六年 十月八日】
 帝都、夕方より雨あがる。*1亮より手を貰う。幼子はいい。

 午前中よりラウール公の葬儀へ出向く。*2クハルト公も既に立派な青年である。目元が父上によう似ておられる。リリシア夫人より公の直筆の手蹟を頂戴し、また後日のお招きを頂戴したため年明けまでは帝都におることに決める。帝都の冬は厳しく節々にしみるが、形見を下さるとのことなので断ることもない。
 公とは長いご縁であった。最後の手蹟も私を気遣って下さっているのは嬉しい。私の時間はまだもう少し残っている。だから公が外殻を整えた巨大な詐術に最後の一押しは与えておこうと思う。私に残っている星の力は淑人の死によってまた増大する。本当はこれを景延か氾梁へ落とさねばならぬが、伊の命運は尽きることが決まっている。故に私で使い切ることにする。いずれにしろ星を歪め軌道を無理に折ることはその見返りを要求する。ならば伊一族の命と引き替えでもよいではないだろうか。
 星は巡る。いつか私もその中に混じる。循環へ戻れば皆同じだ。己は消えて混沌に溶け、やがて軌道へ戻っていく。挽歌はその道筋を示す祝言歌しゅくごんかだ。私たちの行くべき星の道を歌っている。ケイの星もきっとまたどこかで会うはずである。星に混じった後の魂魄を追うことは出来ないが似たような軌道を巡る者同士、行き会うことは分かる。
 死は全ての王にして運命の支配者である。誰もその支配から逃れることは出来ぬ。先帝陛下の命も、引き延ばしても留めることは出来なかった。
 あの弱い方を私は守りたいと思っていた。困難に遭えば何かに逃げ込み、衝撃を受ければ閉じこもり、それらを克服して雄々しく立つことは最期まで出来なかった。けれどそれでいいではないか。あの方の星にはそれは書かれておらなかったのだ。それは欠点ではあるが、あの方の受動的で許容する性質であればそれでいい。
 この夜はラウール公の送り火のため、帝都は暗闇である。だから星がよく見える。星の死には星の葬列が必要である。だから私は彼の軌道が安らかな道になるよう少しだけ書き換えてやる。
 それが私からの手向けである。星の軌道の行く道にひっそりと添う挽歌と共に。

 追記・一の八の後、六手で九の四へ到り、私の勝ちであ*3

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*1 子亮
イルヴェンの子で、後のイルミーラ公。子亮とは幼名。イルヴェンはイ・ユーファーの次男であり、イダルガーン公の従弟の孫である。手、とは文字のことを暗喩している。子供であるという記述も付与されているため練習した字を長老に見せに来た、というところか。

*2 ナクハルト公
ラウール公の次男で後継者。長男のエスラスト公が放蕩に沈んでいるため彼が次男ではあるが家督を継ぎ、ラウール公爵を名乗った。父親の大公位は一代限りの限定付であったから、公爵が本来のラウールの爵位でもある。

*3 一の八
恐らく囲碁の棋譜。始祖帝にはイダルガーン公が教えたというが、ラウール公には誰が教えたのだろうか。とはいえ、全体の棋譜が不明であるからどちらが真実勝ったのは分からない。