第3章 かもめたちはうたう 12

 彼がシャラの元を訪れたのはそれから4日ほどしてからだった。日付も曜日もまるで定まっていないが、月に2度か3度は顔を見せる。
 小間使いの少女の案内でシャラの部屋の前に立つ彼の表情は冷たく整って、どこからも何も寄せ付けない酷薄さが目立っているが、シャラの側に腰を下ろすときには微かにではあるがぬくまるのを、シャラはいつものようにじっと見つめた。
 その整った面差しを見るたびに思うのは、息苦しくなるほどの思慕であり、眩暈がするほどの憧憬だ。彼はあたしの神様。あたしを生かして殺すための神様。
 ほうっとシャラは見惚れるための吐息をつく。するりと腰のベルトに挿されていた煙管を取り出して火をつける仕草。薄い唇がついばむように吸い口に触れるその風情。彼のすることは全てが美しく、完璧に整っているようにシャラには見える。
「……珍しいか、煙草が」
 今日は彼は機嫌がいいらしい。シャラがいつものように自分を見つめている視線を厭う素振りなく、薄く笑っている。
 自分と同じ翡翠色の目が、自分をじっと見ているのにシャラは気づき、そっと手で髪の形を確かめた。日付が決まっているのならその日は特別に綺麗にしておくのにといつも思うのだが、その約束はくれたことがなかった。
 毎日そうしておけばいいのかもしれなかったが、シャラは日常を巧く運営していくことは苦手で、部屋の片づけや洗濯や針子作業もどうにも好きになれない。料理などはしたことがないが、おそらくこれも同じだろう。
 シャラはつまらない空想をすぐに捨てた。あれほど待ちこがれていた時間を目の前にして、他のことを考えるのは馬鹿馬鹿しいことであった。
「いいこと、あったの?」
 微かに自分の声が上気して、いつもよりとろんとしている。この声音がひどく女臭く甘たるく聞こえるのは知っているが、こんな声にしかならないのだ。
 別に、と返答する声は先ほどとは一転して固い。何か良いことがあったとしても、それはきっとタリアの内律に関わることであって、くちばしを入れるなという態度だった。それはそれで正しいだろう。シャラにはタリア王を頂点とするこの町の機構のことはよく分からない。自分たちは緋房の籠の鳥であって、美しくさえずっていればそれでいいはずなのだ。
「ちっとも自分のことは話してくれないんだ……」
 それでも拗ねたふりで彼の顔をのぞき込めば、そこにあるのは淡く翳ったぬるい表情であった。彼は苦笑しているのだ。
「俺のことなど聞いてもつまらんさ。それよりも最近はどうだ──チアロも相変わらずのようだな」
「……他のお客のことは話せませんよーだ」
 きゅっと顔を縮めて愛嬌のある表情を作ると、男は今度こそ唇をゆるめて笑った。はっきりした彼の笑顔はごく珍しく、それに見入ってしまう自分がつくづく馬鹿な女だとシャラは時々恨めしくなる。
 彼の僅かな仕草や造作で簡単に幸福になってしまうのは、一体損なのだろうか、得なのだろうか。
 たった一つ言えることは、こうして容易く見つけることの出来る幸福は、やはり容易く散ってしまうということだ。
 彼の表情が僅かに変わるたびにそれが何を意味するのか必死でシャラはくみ取ろうとするが、その性癖のおかげで先ほど感じていたはずの光は気付いたときには既にない。ただ光感の気配だけが胸のどこかに漂っている。
「……チアロの奴が、しばらく来られないと──」
 言いかけた形良い唇にシャラはだめ、と人差し指を押し当てた。
「今は他の人の話なんかしないで。あたしはチアロの話なんかしたくないわ」
「だが、奴はお前が」
「関係ないわ。あたしはあなたしか好きじゃないもの。そうあの子にも言ってあるもの。だから今は他の人の話なんか、聞きたくないししたくもない」
 きっぱりと言い切ると、シャラはさっとその場を立った。彼のためにいつものように酒と食事を頼まなくてはならなかった。酒は飲まない男だが、食事は抜かない。
 簡単に注文を書き付けて小さな袋に入れ、下の調理場へ通じる管へそれを放り込む。袋にはそれぞれの遊女の源氏名が書いてあるから、それを見て部屋へ注文の品を裏廊下を通じて小間使いが持ってくることになっているのだ。
 酒にしろ料理にしろ、彼の好みと量は大まか掴んでいる。何を食べるのか最近は聞くこともなくなってきていた。
 作業を終えて男の所へ戻ると、彼は煙草を楽しんでいた。煙草を吸う男の肌からは草の甘枯れた匂いがすると他の遊女達が言うように、彼の側によると確かにその匂いがした。
 時折夜中に目を覚まして彼の鼓動を聞くために耳をつけると、正しく脈打つ動音と共に煙草の甘く渋い匂いにふわりと包まれるようで、シャラはそれが好きだ。
 長い一吐きを終えると彼は服の内側から小さな袋を取り出した。あけるように目線で促され、シャラは口を縛っている綾紐をほどく。
 中から転がり出てきたのは紅玉の指輪であった。血の色をしたそれをぐるりと白貴石で囲み、ぐっと爪で立ててある。何、と言いかけてやっとシャラは気付いた。以前彼がタリア王からもらったという紅玉と碧玉の一揃いを指輪にして一つづつ持ちたいと言ったはずだ。それを彼は律儀に守ってくれたというわけであろう。
「すごい……綺麗」
 シャラはそれをつまみ上げて灯りにかざした。深く濃い赤に白貴石の眩しい輝きがはえて目を奪われる。あの紅玉以外にも彼が色を付けてくれたのだった。
「すごい、綺麗、すごい、……似合う?」
 右の中指に押し込むと、何の抵抗もなくぴたりと入った。ずっと以前、別の指輪をねだったときに教えておいた輪径を彼はまだ覚えていたらしい。
 けれど彼の指には揃いの指輪はなかった。そんな風にしてくれると言ったのをもちろんシャラは覚えているから、ねえ、とその袖を引く。責められずなじれない、そんな弱さがひどく甘ったれた声音に変わった。
「一緒に作ってくれるって言ってた指輪は? 今日は持ってないの?」
 僅かに男は苦く笑ったようだった。
「……指輪は、細刃刀の手袋に引っかかるからな。俺が持っていろという意味だったと思ったから結局」
 言いながら彼は左の頬をかすめて落ちる髪をかき上げる。その耳朶に柔らかく噛み込む、青い光があった。
「邪魔にならない選択が優先なのは仕方がないだろう……それとも指輪をこちらに作り替えるか、シャラ? 細工屋の親爺はお前の指輪に使った石と細工は上等だからそれが一番いい形だと言っていたが」
 うん、と曖昧な返事をしてシャラは自分ではめた指輪の輪郭を指先でなぞった。彼の言うとおり、これはこれでよい細工物だった。
 それに彼の理屈も分からないとは言えない。それが嫌だとかどうしても駄目だとか、そんなわがままを言えば彼を怒らせるかも知れない。その最後の考えがどうしても抜けないのだ。
 わかった、とシャラは明るい声を出した。自分と彼の間に共通するものを持ちたかったのに、それは結局微妙にどこかがずれた形となって実現した。けれど、それをシャラは責めない。
 ──そんなことが出来るはずがないのだ。
「いいわ、ありがとう。大切にするね」
 男はゆったり頷き、髪を押さえていた手を煙管に戻した。シャラとほぼ同じ、とってつけたような薄い茶色の髪が落ちて碧玉の色味は完全に視界から消えた。
「ねぇ、見てもいい?」
 シャラは立ち上がり、側に寄る。
 無造作に男が頷き、彼女から顔を背けて煙を吐いた。
 そっと手を伸ばして彼の髪をかきあげると、先ほどと同じように深い青がきらめいた。耳朶に指で悪戯するように軽く触れると、男は僅かに喉を鳴らした。まるで猛獣を撫でてやっているようだとシャラは思い、確かに自分がこの男の特別な相手であることを思い知った。
 彼は気安く誰にでも触れさせるような空気を持たない。以前の宴席でリーナなどは本気で怯えていたようで、それ以後もシャラの語る彼の話を聞きながらの表情は硬い。時折彼がこの技楼で派手に振る舞う宴席においても、チアロ以外の誰一人、寄っていこうとしないではないか。
 その特別さを何度も違う角度から見つけるたびに、シャラはねじれたような気持ちになる。彼がシャラに心やすくぬるくほどけているのは、彼女を妹だと認知しているからだ。それは彼にそっと身体を預けてみた幾多の夜、背中に手を回してみた数多の朝に、その度に告げられてきた言葉だ。 
 あまりしつこくかき口説くようなら俺は寝台で眠らなくてもいいのだと言われたのが丁度1年ほど前のことだ。そのとき涙をこぼさないように意地だけで目を一杯に見開きながら頷いたのは、彼が遠くなってしまうという恐怖ゆえのもので、決して納得したわけではない。
 だが、向こうはシャラが理解して聞き入れたような態度をとる。シャラの涙が見えなかったはずはない。自分がどれだけ彼を好きか、知らないはずはない──なのに。
 そっと落とした溜息に、ちらと男はシャラを見て煙草に戻った。シャラは彼の耳を飾る宝石から視線を離して寝台にぽんと座った。
 彼の側にいると泣きたくなる。どうしていいのか分からない。この人を好きで、とても好きで、どんな風にされても殺されたっていいと思っているのに、彼はきっとあたしを何気ない女のようには愛さないだろう。兄妹だという確証もないくせに一貫して態度を変えない。
 閉塞した状況をどうにかしたいとどれほど願ってもどれほど思っても、彼はシャラに対する線引きの位置を変える気配がなかった。
 すり寄れば押し戻され、泣けば宥められ、これ以上の何かを出来るとは思えない。
 そのくせ何か他愛のない我が儘を通したいときには泣けばいいと知っている。彼の目の前で、ぽろぽろ涙をこぼしてみせれば彼が大概怯むと分かっているのだ。指輪のこともそうやって泣き落とした。例えばずっと来てねという約束も、抱けと言わない代わりに一緒の寝台で眠ってもらうことも、そうやって承知させてきたのだから。
 これは狡いのだろうか。あたしは陰険で悪知恵の働く女? それともこの人を振り回すだけの足かせ? 
 当人はともかく彼の下にいる幹部の数名はシャラをそう見ているのが明白だったから、この考えはシャラの中に根深く住み着いている。
 宴席で当然のように彼の側にいる自分を見る連中の目つきと来たら、まるであたしが彼を都合良く利用しているだけのような、うろんなものを見るように蔑むのよ。
 だから彼らの前では絶対に笑ってやるのだとシャラは決めている。彼らの前では華やかで驕慢で艶やかな花になってみせる。ことさら連中の前で供物をねだるのも、甘えた声を出すのも、彼らの不愉快が多少は溜飲を下げるからでもあるのだ。
 シャラは黙ったままで煙草を続けている彼を見やり、寝台にゆっくり身体を倒した。真横になった世界には、やはり彼しか見えない。どんなときもいつでも、彼はシャラの全てだった。
 ──神様。
 シャラはリーナが時々呟いているその言葉を思い起こす。彼女の不幸は明らかだが、それを彼女は祈ることで忘れようとしているように見えた。
 目に見えない何者にそんなに真剣に心を傾けられるのか、シャラにはさっぱり理解が出来ない。けれど神様という時の彼女の口調には全てを委ねたような敬虔さと安堵感があって、それはそれでよかろうとも思う。
 神様、という言葉を思いついたのはだからリーナのおかげだ。彼女の言う、崇高でこの世で最も正しい人だというのなら、シャラの神は彼だ。彼女の神は見えないが、シャラの神は目に出来る。冷淡な陰がさす整った面差しをして、低い声で、広い肩で、細い指で、シャラを捕らえて彼女に君臨し続ける、絶対の相手。
 ──でも。
 シャラは目をすがめる。そうすると視界が狭くなって彼の姿もほっそりとして見えるが、どんなときでも見えるものの中心に据えられているのだった。
 でも、リーナの言っている神様は安息をくれるけど、あたしの神様はそんなものをくれないわ……一体何が違うのかしら……?
 シャラは半身を横たえたままじっと彼を見つめた。いつどんな角度から眺めても、彼の冷たく整った顔貌にはシャラの視線を引きつけてやまない不思議な力があった。
 ちらと彼の視線が自分を向いたのが分かった。きっとずっと長く見つめていたのだろう。彼を見ていると心浮き立ち悲しくなり、その両方がぐるぐると巡って次第に訳が分からなくなる。
 そんなときに自分がどんな表情をしているのか、シャラはよく知らなかった。だが、彼がそれを見つけるときに憐憫のような淡いかげりを瞳にくゆらせることは既に気付いている。
 だからきっと、今にも捨てられそうな顔をしているのだ。
 それを思うと自分で自分が厭わしくなる。彼が自分を見捨てきれない甘さや弱さにつけ込む真似だと分かっているのに、それを止められない。
 そうでなければいつか彼から見放されてしまうような気がして、怖い──怖くてたまらない。
 こんな状態が一体いつまで続くのだろう。
 それでもシャラは同情など要らないと、憐れみなど欲しくないと、訴えることが出来ない。そんな言葉は一瞬の激しい怒りを焚きつけても、決して燃え広がらせてはならない炎だ。
 彼がもう自分の元にこなくなると言うことを、考えるだけでも恐ろしく、気が狂いそうになる。
「──どうした、シャラ」
 いつもと同じ低い声音が自分の本名を呼ぶ。
 本来はシアナという源氏名で呼ばれるべきであったが、これを許すことが特別である証なのだ。遊女と客という枠を越えるという表示であり、それは二人の間に流れている現実という河そのものであるようにも思われた。自分は客ではない、という意味であろう。
 それもよく分かっていて、シャラは別に、と素っ気ない返事をした。けれど彼のやや困惑じみた、淡い影のくゆる表情は変わらない。どうしたのだろうとシャラがまばたきすると、ぽろりと涙がこぼれたのが分かった。
 ああ、自分は泣いているんだ。だから彼はあんなに困ってるのね。意地悪く囁く自分の中の呟きにシャラは唇を噛み、いいの、と小さく声にして寝台に顔を押しつけた。僅かに場の空気が対流する気配がする。彼が何かを言おうかどうしていいのか考えているときは大抵こんな奇妙な沈黙になるのだ。
 考え抜かれた言葉など要らなかった。シャラの気持ちに配慮するためだけの優しい言葉をなんと紡いでいいのか彼が考えているとしたら、それはシャラの胸にある恋情となんと不釣り合いで薄い心なのだろうか。
 ──恋愛には必ず勝利者がいる。力関係は決まっていて、逆転することは滅多にない。恐らく、自分たちの間には永遠にないだろう。自分は彼のために生きて彼が死ねと言ったら死んでもいいとさえ思っているのに、彼はきっとあたしのために命を捨ててくれるとは言わないだろう。
 いっそ死にたい。今彼があたしを大切にしてくれるこの瞬間に。そうでないといつか、彼を憎んでしまいそう──……
 死という単語がふっと脳裏に浮かんだ瞬間、それへの甘美な憧れと本能的な畏れによってシャラは堪えきれずに声を上げて泣き始めた。それを全て彼にぶつけるには覚悟と勇気が足りず、飲み込んでしまうには溜め込んできたものが多すぎた。
 そっと自分の髪を撫でる手がある。シャラは顔を上げてその手の主の首にしがみついた。
 こんな時でなければこの男はシャラが身をすり寄せるのを避けようとする。自分がどこまでも計算高い女であるという自嘲を心に聞きながら、それでもシャラは離れられない。
「好き……」
 結局、自分に残っているのはこの言葉だけなのだ。呆気ないほど簡単な、たった一つの言葉によって自分は自分を苦しめるもの全てと戦わなくてはいけない。そしてその戦いを見て見ぬ振りをされるなら、自分は本当に彼をいつか殺したいほど憎しむかもしれなかった。
「……大好き……」
 熱に浮かされたように呟くシャラの髪を、大きな手がゆっくり撫でる。この中途半端な優しさなど要らないとはっきり言えたらどんなにいいだろう? でもそうしたら彼はあたしから離れていかないだろうか。あたしを嫌いにならないだろうか。あたしにもう二度と会ってくれないんじゃないだろうか……
 知りたくない。知りたくない。この仮定を投げたときにどんな目を出すのかなど、知りたくもないし考えたくもない。だから言ってやれることはそう幅がなかった。
「ねぇ……いつか、あたしのこと、殺してくれる?」
 一瞬自分を抱き留める肩が痙攣したのをシャラは感じた。彼の呼吸はいつものように静かだが、その僅かな所作で鋭く心に噛みついたことをシャラは知る。泣きたくなるほどそれが嬉しいような気もしたし、取り返しのつかないことをしてしまったような恐れも同時にわいてきて、シャラはねえ、と再び言った。
「あたし、死ぬときはあなたに殺されたいの。ねえ、そうしてくれる?」
「馬鹿なことを言うな」
「……そう……ね、馬鹿みたい……」
 シャラは小さくしゃくり上げるように笑った。彼のことばかり考えている自分が可笑しかったし、こんな簡単な泣き落としの罠にはまる男もひどく可笑しかった。
 でも──死にたい。彼の手で死ねたらどんなに幸福だろう。こんな事を考える自分は本当に馬鹿なのだろうか。
 それを思ってシャラがもう一度小さく忍び笑ったとき、裏廊下から通じる扉が叩かれるのが聞こえた。注文に出していたものが揃ったのだろう。シャラはぱっと体を離して小さな仕出窓から出される銀盆を受け取った。代金はあたしにつけておいて、と窓越しに小間使いに言いつける。
 出てきた食事を彼に差し出しながら、シャラは彼が火を消した煙管を手に取った。漢氏竜の彫刻のある柄に指を這わせる。この煙管ほどに彼にほど近くいられたらどれだけ嬉しいだろうかと下らないことを思い、胸内にそっと溜息を落とした。
 彼のしていることはあたしを緩慢に殺すことだ。だからいっそ一息に殺して欲しいと願うことの何がいけないんだろう。それをいつかこの男に言えるだろうかとシャラは彼女の神に視線をやり、ふと笑った。
 多分かなわないことであろうと思うことのほうが、空想の中では美しく見えるものなのだ。シャラはそれをとうに知っているはずであった。
「──ライアン……」
 彼の名を戯れのように口にして、シャラはもう大丈夫よと言う代わりに笑う。
 悲しいときは、笑うしかないじゃない? 死にたいときは、尚更笑うしかないじゃない。あたしたちは、美しく着飾って華やかに笑ってこその緋房の籠の鳥なんだから。
 せめてその小鳥の中で一番に愛でて欲しいという願いに突き動かされて、シャラは上機嫌に見えるように笑った。笑いながら手に残る煙管を、胸に燻っている何物かのためにへし折ってやりたくなる。
 その時、ほんの少し彼を憎んでいる自分にシャラは気付いた。




    殺してよ
    お前が別離を告げる前に 私が憎んでしまわぬ前に