第3章 かもめたちはうたう 13

 酒場の中はいよいよ暗い。注文の酒がグラスごと目の前に置かれると、中の液体が僅かな灯りに揺らいで琥珀色の淡影を男の手に落とした。下町と呼ばれるこの界隈でそれほど良い色の酒があるはずがない。この薄暗がりはそのせいなのだろうかとぼんやり思いながら男は客席の間に立ちつくす、酒場の歌姫を見つめた。
 声は神が人に与えた最良の楽器だと、誰かが言った。それが最良だとするならば、それは魂からほとばしる熱の量に浮かされてのことでないだろうか。
 けれど、それは悪くない。男はふと唇だけで淋しく笑う。女が揺るがす声の中に籠もる熱は確かに魂の形に似ていた。
 歌はゆるやかに続いている。




   涙を持たない海鳥たちの 悲鳴は海へ墜ちるもの
   泣けずに沈んだ宿定は 閉じて籠もった貝のよう
   お前の元には届いている? 涙の代わりの、海鳥の歌

   探してよ
   波間にさすらう魂と 私の欠片をいつの日にか