第4章 夏、紺青の海へ 7

 ゆっくりと外周を回っていくと、さびくれた門構えが見えた。チアロは足を止めて彼の記憶の中の過去と照らし合わせ、やがて頷く。確かここで良かったはずだ。もう……4年ほど前のことであったが、おぼろながら所在地を覚えていた自分にほっと安堵する。
 鉄の飾り格子になった門扉を軽く押して中へはいると、庭にいた少年たちが一斉に稽古をやめてチアロを見、そして彼の背後の子供を見た。……身売りだと思われているのだろうか、視線が強い。チアロは苦笑し、彼に付いてきた子供の額をつついた。
「ショワ、外で待ってろ」
 子供はやや不満げに唇を尖らせるがチアロの言葉に逆らいはしない。チアロがライアンの子飼いと呼ばれているように、ショワは彼の一番近しい部下であり、弟のような存在でもあった。
 ショワが門扉の方へ戻っていくのを見据えてから、チアロは視線を前へ戻した。ぴしりという鞭が空気を割いて石畳を叩く音がしたのだ。その音に弾かれたように子供たちがまた稽古を再開した。殺陣、軽業、そして芝居の台詞と立ち回り。
 子供を監督する鞭をうち下ろした老人に向かってチアロは軽く会釈し、その側へ歩いた。
「何か用かね。うちは今は新しい子供は要らないよ」
 老人は椅子に腰を下ろしたまま、ぼそぼそと言った。チアロは首を振った。
「少し調べものをしてるんだ……もう10年くらい前に、この一座にライアンって子供がいたと思うんだけど」
「さて、年を取ると耄碌していかん」
 微かに空気の抜けた声で笑うと老人は再び石の床に鞭を叩き、何人かの名前を続けて叫んだ。
「何度教えたらいいんだ、この馬鹿どもが!」
 名前を呼ばれた子供たちが微かに身を硬くする。
 チアロはそれに首をすくめた。ここがライアンの育った場所だ。少なくとも6才を過ぎた頃から12、3まで彼はここで活劇芝居の役者をしていた──この子供たちと同じように些細な失敗に怒鳴られ、鞭で打たれながら。
 チアロはさっと彼らの目に走った怯えに気付き、お願いだから、となだらかな声を出した。言いながら内懐から10ジル紙幣を数枚掴みだし、老人の手に押しつける。それをさっと袖の中にしまい込み、老人はチアロをややすがめになりながら見上げた。
 誰を捜してるって、と聞き直されて、ライアンの名とこの芸団で活劇の殺陣役者をしていたことを告げる。老人はチアロの説明に何度か頷きながらぼつぼつと返答した。
 ──ライアンだってね? ……イダルガーン役の活劇役者か……ああ、そういやそんなのもいた気がするな……まぁ、お待ち。帳簿を探してあげようね。
 そうして老人が席を立ち、奥にある雑居用らしい建物へ消えていく。子供たちの殺陣の気迫が途端にゆるまって、チアロははっきりした苦笑になった。鬼の見ていない間にはやはり気が楽になるのはどこの世界も共通らしい。
 芝居の稽古を何となく視界に入れながら、チアロは長い溜息をつく。
 ライアンの履歴は大体を本人から、何かの折りに断片的に聞いたものをつなぎ合わせて理解している。彼はこの一座から老人の稚児に売られ、2年近くを慰み者に甘んじた後逃亡し、チェインに転がり込んできたはずだ。
 この劇団だと言うことには間違いがない。……何故なら4年前にライアン自身がここへ来たのにチアロも同行したのだから。
 あの時、自分もショワと同じように外へ出されてしまった。ライアンに付いている自分を、子供たちがうろんな目つきで見たのだろう。そんなことが今更分かる。
 ライアンが何をしに来たのか、その時には教えて貰えなかった。けれど、今は知っている──多分、正確に察している。今チアロがここへ訪ねてきたのと同じ理由によって、ライアンは4年前にここへ来たのだ。
 お願いよ、という声が遠い場所から蘇ってくる。チアロは吐息を長く落とした。
 彼女のことは特別だ。気位が高くて気質が脆く、鼻っ柱が強いくせに折れてしまいそうなほど弱い。彼女のことを思うたびに新しい息吹のようなものが胸の底に湧く。一目見た瞬間から何かに撲たれたように彼女のことばかりだ。
 恋だの愛だのという小難しい理屈は要らない。
 ただまっすぐに、彼女だけに視線も思いも向かっている──好き、なのだ。
(お願いよ、ねっ、いいでしょ? あたしのこと好きなんでしょ?)
 利用されているのだということが分からないほど馬鹿でもないが、彼女がそう思いたいならそれでも良かった。彼女のことに関する限り、馬鹿だと言われても構わない。
 要するに、何だっていいのだ。彼女が自分に頼ったり甘えたりしてくれれば、それがどんなにあざとい仕打ちであっても、誰かの身代わりであっても、八つ当たりであったとしても嬉しい。それが恋だ。少なくとも、チアロにとっては。
 シアナ、と彼女の名を呟くとそれだけで嬉しくなってくるのだから本当に馬鹿なのかも知れない。この名前は遊女としての源氏名だから、本名は別にある。それを教えて貰えるのは特別の印で、この調べものが終われば与えて貰えるはずであった。
(兄がね、いるの。会ったことはないんだけど、母がそう言ってたから……兄を捜して、お願い。年は私より7才上で、名前は……)
 シアナはややためらうように言葉を濁し、そして名前はライアンよ、と付け加えた。シアナの7才年長というのなら、それはチアロの主人であるライアンと同年齢であったはずだった。
 ライアン、と聞き返すとシアナは深く頷いてお願いよ、と幾分重い声になった。
(そう。つまりね、ライアンが私の兄なのかどうか、調べて欲しいの。私の母の名前はシルナ、南国沿海州の出身で言葉が片言だったから、母のことを聞いて貰えれば分かるかも知れないわ──お願いよ、ねぇ、こんなこと頼めるのチアロくらいしかいないの)
 最後に追加された言葉が目的を達しようとするあまりの無意識の媚びであったせいでチアロは反射的に頷いてしまったが、落ち着いてよく考えてみればこれも妙な話であった。
 ライアンはずっと彼女に通い続けている。シアナもライアンに夢中だ。
 けれど彼女は自分たちの間に血縁があるかどうかが気にかかるらしい。……ライアンとの絆を確かめようとしているのだろうか、それとも兄妹であったら関係が劇的に変化するのか。
 妹である方がチアロには都合が良さそうだった。気になる、というならば血縁が証明できればシアナがライアンを諦めるという選択が浮上する。シアナはそれを迷っているのではないだろうか。
 だがライアンはこの問いの答えを知っているはずだ。4年前に彼も同じ疑問を抱いてここへ、自らの母親の足跡を求めて立ち寄っている……恐らく。そしてそのまま関係を解消することなく続けているのなら、シアナは彼の妹ではない。
 ……概測をどことなく掴みながらも確信には至らないため、この芸団まで足を向けているのだが、回答は知っている気も胸のどこかにあった。
 やがて戻ってきた老人が、子供たちの様子をさっと一瞥して帳簿をめくり始める。古びた紙のカビ臭さが僅かに漂ってくる程度の時間が過ぎて、老人の指先が一カ所でとまった。
「この子だな……帝歴1978年9月、ライアン、6才」
 そうですね、と頷いたチアロにだが老人は自分で首を振った。違う違う、と呟き、その指がやや遅れた記録を辿る。
 この子だな、と指された帳簿には名前がなかった。チアロが訝しく老人を見ると、老人の方はひょいという仕草で肩をすくめた。このライアンって子はこっちの子を買う3日くらい前に死んだんだよと薄く笑い、付け加える。
「名前は母親が売りに来た時に聞いたはずだったが、忘れちまったんでね。だからこのライアンって子の名前をそのままつけた……」
 チアロは僅かに眉をひそめる。この老人の適当さ加減はここにいる子供たちの個々への関心など無いことの証明であった。
 金のない家ほど子供が多い。仕事を手伝わせたり、最初から無戸籍にしておいて売り払ったり、子供など物と同じなのだ。
 少なくともこの老人や、老人に子供を売った親にとっては。
 これに多少の不快を感じるのは、チアロにとっての父親が、決して理不尽で憎むべき相手でなかったことが幸いしているのだろう。
 チアロは気分を変えるためにそう、と務めて明るい声を出した。
「ねえ、じゃあこっちの子がイダルガーン役をやってたライアンだよね? 12か3でどっかの変態に稚児に売られた……」
「人聞きの悪いことを言うんじゃない、養子だよ、養子」
 チアロは今度は苦笑して分かったよ、と老人の詭弁に合わせた。実際のことはライアンの少ない言葉数の中から拾い上げた嫌悪感で察しているが、ここで実体のことを論議しても始まらないだろう。
 老人は養子だともう一度念を押し、それから頷いた。最前のチアロの言葉への肯定であるらしい。
 ではこの名無き子供がチアロの主人であるライアンであろう。
「じゃ、この子の母親なんだけどさ……異国人って話、ない?」
 ここでシアナの記憶と合致するならば、もう少し詳しく調べても良かった。これが噛み合わなければ他人だと断定も出来る。
 老人は怪訝に眉をひくつかせ、首を振った。
「いいや、異国人から子供を買ったことなど一度もないよ。言葉がおかしいと芝居に使えないからな」
 一瞬置いてチアロは頷いた。老人の言い分には道理があった。軽業なども見せてはいるが、この芸団の一番の出し物はやはり芝居だ。台詞がおかしいのは具合が悪いのだろう。
 間違いがないかを確認してチアロは10ジル札を老人に渡し、芸団を出た。門外で退屈そうにしていたショワが駆け寄ってくる。
「もういいの、チアロ? 何の用だった?」
「いや、お前には関係ないことだよ」
 軽く子供の柔らかい髪を撫でてチアロは多少巻き起こってきた感慨のために空を見上げた。
 ライアンとシアナは兄妹ではなかった。そうではないかと推測していたものの、呆気ないほど簡単に回答は与えられた。
 ……けれど、これをシアナに伝えたら……どうだろう。
 彼女は今でもライアンに夢中だ。それに嫉妬さえ興らないのは自分もライアンを好きで、深く尊崇しているからでもあろう。彼の良くない所も沢山知っているが、誉めろと言われたら幾らでも出来る自信がある。
 けれど、嫉妬しないことと希望を持たないことは違う。
 いつの日にか、シアナがライアンに向けるような熱っぽく潤んだような瞳の中に自分を見たい。彼女のためになら、文字通り何でも出来るとも思う。
 そうやってかき口説いても何度も言葉を重ねても、身体さえ添わせていたって彼女の美しい翡翠色の目はいつでもチアロを通り越し、ライアンを見ている。兄妹でないと教えてしまったら、その目は二度とそこから動かないかもしれない……
 チアロは頬を僅かに苦笑に歪め、薄い色の髪をくしゃくしゃかき回した。教えてしまえばきっと一生彼女の都合のいい友人程度のものから脱却することが出来ない。けれど黙っているのは彼女が多少なりとも自分に向けてくれた信頼を裏切るのと同じ意味だ。
 告げるべきなのかどうかを考えながら、それでも生来の多弁な性質のままショワと雑談に笑い合いながらチアロはタリアの境界門を過ぎた。
 黄昏近い境界門の付近はこれからこの歓楽街で一夜を楽しもうという魂胆の人々によってごったがえしている。
 どうするかは彼女の顔を見てから考えよう、とチアロはショワに根城へ戻っているように言いかけ、ふと視線を彷徨わせた。既視感が視界の端によぎったのだ。
 チアロは反射的に人波の気配に自分を埋めた。これは習性と言うべきだった。視線だけでせわしなく気配の方向をまさぐっていると、細い身体が目に入った。
 ──今日は女装か。
 チアロはタリアに流入してくる流れに逆らって外へ行く、すらりとした立ち姿を見つめた。髪は適当に編んで後ろでまとめ、夏向きの淡い色のワンピースに編革のサンダルを形良い足に引っかけ、歩いていく。すれ違う人々が驚愕と賛嘆と、畏怖にも似た目つきで振り返るのが判で押したように同じで苦笑を誘う。華やかで匂い立つように美しい面差しを掘り起こし、チアロは眩しいような圧迫で目を細めた。
 初めて会った時の驚愕が、彼を見て目を瞠る人々の仕草に呼び戻ってくる。
「仕事っすかね」
 ショワの言葉に、チアロは我に返った。今日は仕事はなかったはずだ。本人が少し休みが欲しいと言っていたし、先月から看護学校にも通い始めているからそれに配慮する意味でチアロは頷いている。
 学校か、と思いかけてチアロは首を振った。授業は週に2度だが、仕事と重ねたくないという彼の言葉を受け入れ、毎週彼と予定を連絡し合っている。今日は一日何もない日だ。仕事は入れた覚えがないし、授業は確か、明日でなかったろうか。……それに、彼は学校には確か男のままの服装で通っていたはずであった。
「ショワ、奴を尾行しろ。とりあえず、どこへ行ったのかだけ分かればいい」
 さっと言いつけ、持っていた20ジル札と小銭を子供に押しつける。ショワはちらっと過ぎていく背中を見つめ、でも、と言いかけた。それを遮り、チアロは大丈夫だと素早く言う。
「奴はこういう事には素人だ、お前が奴をじろじろ眺め回さない限り、気付かない」
 尾行には通常二人以上があたる。ずっと同じ人間が視界にいれば気が付くことがあるし、連絡をしやすいという利点もあって、普通はそうするのだ。
 だが、それはないとチアロは即断した。ショワに言った通り、クインはこうしたことには疎く、反応が鈍い。それは仕方がないことだろう。ライアンは彼を仲間に引き込む気がなく、チアロも同じだ。
 仲間として迎えるのなら教えていくべきいくつかのことを、だから彼には伝えていない……例えば、尾行のまきかただとか。
 つまりショワ一人でも十分だ。チアロは既に身長が平均よりも抜けていて、目立つ部類に入るし、顔見知りは適任ではないだろう。
 雑踏の中からどうやらクインは抜けたらしい。人の吐息や視線の方向がばらけて戻ったことですぐに分かった。チアロも目立つがクインはもっと人目を引く。一瞬見失ったとしても、人の気配の方向で探し出せるほどに。
 チアロは肩をすくめてチェインへ戻り、彼の根城となっている煉瓦屋敷の地下から水路に降りた。そこを経由してクインの住処であるアパートへ回る。合い鍵は持っているのだ。
 書斎の机近くには、登校時に使っている鞄が置かれていた。相変わらず、適当に積み上げた本と訳の分からない書き付けが散乱している汚い部屋だ。机の上の意味のない単語の書取、専門用語の辞書だろうか分厚い本にびっしり挟まれた紙片。それらをそっと動かして、チアロは引き出しを開けた。こちらも整理整頓とは無縁に文具が散らばっている。
 引き出しをゆっくり滑らせて、中の物の位置をずらさないように気を使いながら手を奥へ突っ込むと、やはり何かが指先に触れた。隠し物は引き出しの奥、というのは本当に常套だ。
 紙片のような物を指でつまんで引き出すと、それは一枚のカードだった。幻想的な青い色は海なのだろうか、そこに微笑む天使と群れ泳ぐ魚を配した美しい絵が印刷されている。裏を返すと地図と日付があった。父親から最低限の読み書きは教えられていたせいで、チアロはごく簡単な構文は理解できる。いくつかの単語は読めないが、絵の展覧会の案内状だろうということは察しが付いた。
 絵か、とチアロは少し眉を寄せる。……確かクインの最近の仕事の中に、絵を描くとかいう若い女がいたはずだ。オルヴィから仔細の申し送りを受けた時に、そんなことを聞いた気がする。それとすぐに結びつけて考えるのは性急すぎるとは思うけれど。
 チアロは溜息になった。カードを元の場所に戻し、違和感のないように慎重に引き出しを閉めて居間へ戻る。一応の用心のために切っておいた明かりをつけて、ゆるく首を傾げながら長椅子に身を預けた。
 ……クインの様子は確かにこの半月ほどおかしい。明らかに浮かれている。それにはとうに気付いていたが、元来気性の上下の激しい子供のことであるから悪い時があればよい時もあるのだと考えてきた。
 ……だが、チアロに何も言わずタリアの外へ出かけていくとなると、何かの秘密を持っていると思った方がいいだろう。
 折りもおり、ライアンが居ない。彼はオルヴィを連れてシタルキアの北東、エリオン王国に足を向けており、あと1ヶ月は戻ってこないだろう。タリアを離れる直前にクインとまたひどくやりあったらしく、そんな話をライアンからは聞いた。留守中は頼むと言われて頷いた記憶がある。
 まずいよな、とチアロは額に落ちる髪をかき上げるついでにくしゃりとかき回した。ひどく明るくて楽しげなクインの表情には確かに安堵も覚えるのだが、地に足の着いていない浮かれ方は……恋だろうか。チアロは顔を一瞬歪め、自分の表情が渋いことに遅れて気付いた。
 それは彼のためにいいことだ、とは思う。けれど彼のために素直に喜んでやることは出来ない。
 クインはライアンのもので、だから許容されていることが沢山ある。ライアンの掌握する子供たちの幹部と呼ばれているのは現在チアロを含めて6人だが、クインに多少なりとも好意を抱いているのはチアロくらいのものだ。
 ディーもノイエもカインも彼を疎ましく思っているし、残る二人、イシュラやカリスに至ってはライアンが彼を所有することにさえ不満げな色を漂わせている。無論チェインの王たるライアンに面と向かって異を唱えはしないが、何か不祥事があった時にはこぞって処分を吠えるだろう。6幹部に更に一人増えるという噂もちらほらあるが、そうなれば事態は更に悪くなるのは明白だ。追加が囁かれているのはオルヴィという女……クインの目下の天敵。
 チアロはちょんと肩をすくめた。ショワの報告を待たなくてはいけないしこれが杞憂であると思いたいが、常に事態の想定はしておくべきだった。
 恋人が出来たなら、それはクインにとってはきっと良いことのはずだった。これまでのように思いを預けようとライアンに寄りかかっては拒絶され、その結果荒れるだけ荒れているよりは遙かにましだ。
 けれどそれを喜べない。ライアンはなんて言うだろうとチアロは溜息になった。彼は気に入らないのに決まっているからだ。
 それは所有欲というよりも体面の問題で、チェイン王としての顔を潰されることがあれば、タリア王アルードへの示しも具合が悪い。そもそもクインのことはアルードには隠したいはずだ。いずれ、クインは何事かの切り札にも使えるとライアンは考えている。
 何が起きているのかがはっきりするまでは彼の様子を逐一観察するしかないが、もし外の世界に恋人が出来たなら……
 チアロは難しい吐息を落とした。その時は彼に、忠告をしなくてはならない。ライアンのいない時機であるのは却って好機だ、忠告を素直に聞いてくれたら自分の胸の中にだけ、収めておけばいいのだし。
 そんな言い訳を胸でいじりながら、チアロは嫌な懸念が自分から一向に離れていかないことに舌打ちをした。