翼在る場所1

 鳥籠から出された小鳥は一瞬戸惑ったようだったが、すぐに自由を知って飛び立っていった。
 それを見つめる異母弟の眼差しに淡い憧れが浮いているのにはすぐに気付いた。或いはそれは翼を持たない者たちの、永遠の憧憬であるかもしれない。鳥になりたいのかと聞くと赤面して俯く様子が、まだ少年期の初端に連なる年齢に似合っていた。
 その瞬間に胸にゆるく溶けてくる温かなものを、庇護欲といったのかもしれなかった。そんな言葉などよりも、この弟の為に手を差し伸べてやりたいと思ったことこそが真実なのだろう。
 弟の憧れの視線はまっすぐ自分に向けられている。お互いに不遇という一言で環境をくくれる王子であるが、自分が環境という名の頑強な檻に斧を振るように見えるのだろうか。
 王太子となるべく自分が払ってきた努力も節制も他人にひけらかす気はないが、いつか弟がそれを理解してくれたらいいと唐突に思う。同母の兄弟を持たないせいか、自分を無条件に慕ってくる弟を決して嫌いではなかった。
 むしろこの弟の指針たり続けようと望むことが自分の中の公正と中庸と闘争心を高める作用なのかも知れない。そんなことを思えば自然と大人として振る舞うこともできた。
 弟が再び空を見上げるのにつられ、空を見上げる。小鳥の影は何処にも無い。だが、その残像は目の奥にある気がした。
 ──飛び去る小鳥。自由に広げる、雄々しくも力強くもないがしっかりと飛ぶための、その翼。
 逃げ去ることも闘うことも選べるのだと信じていた、それは遠い光景。
 いつか風塵に帰すべき、淡い、薄い、何より重い記憶──